[レポート] カプコンでは組織設計とか技術選定とかこうしてます(失敗含む) - DevelopersIO 2024 TOKYO Game Special Day #devio2024_game
こんにちは、まつおかです。
2024年7月、クラスメソッドでは設立20周年イベントとして1ヶ月に渡り DevelopersIO 2024 「Classmethod Odyssey」 を開催中です。
今回は2024年7月5日の『DevelopersIO 2024 TOKYO Dame Special Day』にて行われたトークセッション「カプコンでは組織設計とか技術選定とかこうしてます(失敗含む)」のレポートをお届けします。
セッション概要
登壇者
- 井上 真一氏 (株式会社カプコン システム基盤部 部長)
ゲーム開発におけるベースとなるシステム基盤(ネットワーク、アプリケーション、ソリューション等)を主とした業務に従事
モデレーター
- 武田 信夫氏(クラスメソッド株式会社 ゲームソリューション部 部長)
内容
クラウドの技術の選択基準や活用方法、カプコンの事例をご紹介します。
進化と深化を繰り返し多様化複雑化するクラウド技術、コンテンツの大規模化やグローバルでの競争激化が進むゲーム業界。
技術部門に求められる課題や責任が膨大になり混沌とした厳しい環境下において尚、「おもしろさ」に集中するための組織とは。
全米が泣くかもしれない、技術者たちの愛と涙、冷静と情熱のあいだくらいの物語がここに。
セッションレポート
(文頭にカッコ書きのないものは井上氏の発言です)
技術選定について
- ゲーム開発におけるクラウド技術の選定基準は何ですか?
- トップダウン、ボトムアップどちらも試してみたが、現時点では各プロジェクト(タイトル)ごとにゼロベースで検討することにしている
- 自由に選定すると好き嫌いや新しいからという理由になりがちであまり良いことがない場合が多いため、ひとつだけ設けているルールとして、ビジネスミッション(売上規模やアサインメンバのスキルセットなど)を軸とし、明確なコンセプトやプロダクトデザインを実現する方法を論理的に積み上げた結果、このようなアーキテクチャになると説明できることがある
- 論理的に積み上げたものを井上氏含め他のエンジニアに聞いてもらい、意見をもらった上で全て回答できたものを採用している
- クラウド技術を選ぶ際にどのようなポイントを重視していますか?
- ゲームの新商品を開発する際、新しい技術を使いより良いものを作ろうという思いはあるが、新たな作品を作るには5年以上かかることもあり、今後の見通しが立たない技術については検証はするものの、大きなプロジェクトに採用するには厳しいと伝えている
- テクニカルエンジニア、リージョンエンジニアは優秀であり何年も先を見据えた選定をしてくれている
- ローンチ時点だけではなくその先何年もユーザに使用してもらうことを視野に入れて選定している
- オンプレミスとクラウドのバランスをどのように考えていますか?
- 明確なバランスは考えておらず、ゲームの立ち上げ期は手元で動かすことが多いため、研究段階からデザイナーやプランナーなど他の職種が集まりサイズが大きくなった際にスケールできるかどうかを考えており、オンプレミスかクラウドかの議論はしていない
組織作りについて
- クラウド技術を活用するためにどのようにチームを構成していますか?
- カプコンは40年ほどの中で毎年、もしくは期の途中でも組織変更することがある
- 現時点では専門職の人を集めた組織を作り、その中からプロジェクトチームに人を送り出すという方法を取っている
- 職能組織の場合、職能上位の人がいることで専門性が高まり、育成しやすく、コミュニケーションもとりやすい
- 一方で、ゲームプロジェクトにおいてタイトルを面白くすることだけを考えた場合、様々な職種の人を集めひとつの組織を作り目標に向かうほうがスムーズであるという考え方もあり、行ったり来たりしているのが現状
- 現在のカプコンのステージであればマトリクス型の運営がいちばん良いと考えている
- エンジニア全員がクラウドを理解しているわけではないため片手間でクラウドを利用しているという時代があったこともあり、現在はこのアーキテクチャで良いのか、検証はしたかといった会話がしやすい
- 武田氏)組織は英語でOrganization、内臓のことをOrganといい語源が同じだが、あちこちに異動することで組織を活発にしていくのは内臓的に動いているという印象を受けました
- クラウド技術の導入に伴い組織内でどのような変化がありましたか?
- 会社全体ではコストの考え方や見積方法、PLを組む際の思考が変わった
- オンプレで大量の機材を購入する時代があったが、コストの事を考えオンライン機能はやめようなどと言ったことが減り、出したアイディアが通ることも多くなったと感じている
- 武田氏)サーバーを購入すると資産になるが、クラウドになると経費、PLという扱いになると考えると、プロジェクト単位ではそのほうが使いやすいですか?
- 使った分だけ費用がかかるほうがリスクが減るという点で良いと考えている
- クラウド技術に関する知識やスキルをチーム内でどのように共有・向上させていますか?
- 井上氏)今日会場に来ているメンバーがやってくれているがどうしていますか?
- カプコンの方)新人教育プログラムを終えてOJTやゲームタイトルに配属され、ユーザが触る部分ではない社内のツールでもクラウドを使用していることもあり、そこをスタートとして深めている
- 武田氏)チーム内でのナレッジ共有はどうしていますか?
- カプコンの方)オンラインゲームタイトルは様々な人が担当しており、一同に集まる会議を毎週もしくは2週間に一度開催し、そこでタイトルを横断し共有できている
- カプコンの方)共有される内容は大枠になるが、自分たちのプロジェクトに関係のある箇所はリーダーがメンバーに共有ししている
- 井上氏)今日会場に来ているメンバーがやってくれているがどうしていますか?
課題と解決策について
- クラウド技術を導入する際に直面した課題は何でしたか?
- オンプレを推進するという現状維持バイアスがかかっている人へクラウドの価値を説明することが難しい場面があった
- クラウドはイニシャルコストが低くリスクが少ないという話がある一方で、どのくらい掛かるのかがわからず困るという意見もあり、会計監査担当者などに説明する必要もあった
- プロデューサーとやり取りしていたレイヤにとっては、予実管理として上下どちらも当てに行かないと行けないという人とのコミュニケーションが難しかった
- それらの課題をどのように解決しましたか?
- 説明は丁寧にしたが、足りていない部分があり反発が起こったが、(回答として綺麗なものではないが)みんなが慣れていった
- 新しい技術を使いより良くしていくということを説明する際にカプコンであるから可能であったひとつとして、価値観の最上位に置いているものが「面白い」であり、面白いものを世に出すために必要であるということでうまく解釈してもらい乗り切れた
- ただ未だに解決できていない部分もあるので現在も継続中です!
- 各プロジェクトチームにクラウド技術を導入する際に注意すべき点は何でしょうか?
- 「やります」というスタンスだったため、使いたいものに対して注意することもなく、しっかりと説明できるのであればいいのでは?と
- 武田氏)「しっかりと説明」というのが注意点かもしれないですね
- なんとなく流行ってるからクラウド、安いからクラウドのような場合は、本当にそうなのかという話はしている
将来の展望について
- ゲーム開発におけるクラウド技術の将来性をどのように見ていますか?
- 低レイヤなところからもあり、カプコンの場合オンラインではアクションゲームが多く、今後当たり前になると思っている
- 今後、クラウド技術を活用してどのような取り組みを行う予定ですか?
- ゲーム開発部門の視点でいうと、エンターテイメントとしてゲームの好きなところはインタラクティブであるところであり、特にオンラインゲームでそれが顕著に現れているが、NPCのようなより楽しめるものが作っていけるかもと考えており、それらを伸ばしていくためにも活用していきたい
- ゲーム業界全体でクラウド技術の活用が進むために必要なことは何だと思いますか?
- 武田氏)昨今生成AIが出てきて業務の効率化には使われているが、ゲーム業務領域における生成AIの活用として何かありますか?
- 活用が進むことが良いことばかりかと言うとそうではないと思っているが、必然的に進むとは思っており、現在ではPCやスマホの活用が進んでいるかとは誰も言わないのと同様に、クラウドを使用するのが当たり前になっていくと思っている
- 武田氏)昨今生成AIが出てきて業務の効率化には使われているが、ゲーム業務領域における生成AIの活用として何かありますか?
カプコン独自の取り組み
- 御社のクラウド技術の活用方法の特徴は何ですか?
- 「その時にいちばん面白いものを作る」ためにトレードオフしているものがあり、その時々でうまくいく方法を採用しており、ダメであれば入れ替える
- 武田氏)ダメだったら入れ替えるはいい言葉と思いつつ・・・
- その時は大変ですけどw
- クラウドに限らず新しい技術を取り込むときに注意していることはありますか?
- 1点目:それを使って面白くなるのか
- 2点目:うちがやる必要があるのか、要素技術に言及することがあった場合、既に他のメガテックがやっていることを言及しても意味がないと考えている
- 勉強のため、その先に仕事に繋がるのであれば習うのは良い
- 業界内での技術交流や情報共有についてどのように考えていますか?
- 自身は先鋭的な意見を持っており、オープンにしたほうが良いと考えている
- 数字や実際に行ったことも話して良いと思っているが、情報漏えいのこともあり誰かの承認を得なければいけないという現状がある
- まだ発表されていない技術の話をする可能性のある場合でも、技術交流とはこういうものであると認知されていくことを期待しており、そうしていきたい
- 概論で話しているが、実際に聞きたいのは具体的なところであり、よりオープンにしたほうが全体が良くなると思っている
- 武田氏)要素技術や使い方のノウハウ共有は大切であり、DevelopersIOなど活用いただければと思います
Q&A
- Q:2~3年前にCEDECにて、サーバエンジニアをどうやって採用するかという話が出ており、ゲーム業界では毛色の異なる職種のため採用に苦労しているという話が合ったが、現在は変わってきていますか?
- ありがたいことに事情が変わってきており、エンジニアとして実績のある方に入社いただくことも増え、新卒の時点でエンジニアとして入るという方も増えてきた
- ゲーム会社にもそういったポジションがあり、ゲーム技術は他の業界でも扱っているものと似た技術や規模の大きいものも扱えるといった情報が広まっており、変わりました
- もっと良くしたいですね
- Q:技術選定において、評価軸に運用負荷という話が出ていませんでしたが選定基準に含まれていないのでしょうか?
- 運用負荷の話はカプコンの中で大きな課題となっており、限られたエンジニアリソースの中で同じプロジェクトに関わり続けることは難しいため、カプコンのアーキテクチャは運用手間のかからないものが自然と選ばれている
- プロダクトのコンセプトが実現できるか、プロジェクトのミッション、これは周辺環境に含まれるが、オペレーションコストが低いものを使うべきと考えると、スクラッチで作るとなると手がかかりすぎるためフルマネージドが選ばれることになる
- Q:全社的な価値基準に「面白い」があるとのことだが、クラウドを利用することで面白くなる論理はどのようなものがありますか?
- クラウドを使うことと面白くなることは直結しない
- クラウドや便利な技術全般に言えるが、技術は商品力を最大化するものと最適化のふたつに大別でき、クラウドを最適化として考えた場合余った時間を面白さに再投資できる
- クラウドを使えば安くなるという言い方はしない
- クラウドや新しい技術を採用したプロジェクトが終了した後、結果がどうであったか、次の選定への反映はどのようにしていますか?
- 同じ部署にいることが大きく、職能組織の場合はどうだったかの会話ができる環境にある
- ワークグループという形でプロジェクト軸、オーガナイゼーション軸で人が集まり技術領域ごとに会話する会もあり、そこで共有される
- Q:ゲームが好きでゲーム業界にいることで技術側にあまり興味のないエンジニアがいる場合があり、技術領域ごとのワーキンググループが続かないという印象があるが、続けるコツや意識の共有があれば教えてください
- ゲーム業界に入った当初は全く同じことを感じた
- ゲームを作りたい、技術は手段という考えも正しいと思っているが、現在はゲームを作りたい人と技術的に支える人が別の組織になり、そういった問題は少なくなっている
- ワーキンググループは指名制ではなく、必要に応じて技術領域をを取り扱うこともあるが、価値観が異なる人が混ざることはないと思っている
- Q:エンジニアのリテンションも必要だと思うが、組織設定面でエンジニアの評価基準は成果なのか技術習得なのか、どのような形かを教えてください
- グレード制であり、その中でコンピテンシーも定義されているが、現実的には近くにいる評価者が評価している
- 成果主義にすると、定量的なものとそうでないものもあり難しい
- ただ、尺度として影響力の範囲は定義されており、ひとつの機能を作るユニットの中のことができる、ユニットが含まれたプロダクトの全体が見れる、次はそれを超えて組織全体、会社内全体、会社を超えて業界内、といった影響度も見ている
さいごに
以上、カプコン 井上様と、クラスメソッド武田のトークセッションレポートでした。
組織設計も技術選定も、ゲーム業界だけでなくどの業界でも課題の多いテーマだと思います。
新しい技術を導入する際の決め手として「しっかり説明できること」が重要であることは一見当然のように思えますが、実際にはそれができていないことが多いのではないかと改めて感じました。
また、様々な職種、スキル、志を持った人が混在する組織の中で、どういったチーム構成が最適なのかは組織のステージやプロジェクトによっても異なり、常に変化していくものなのかなとも思いました。
井上様、貴重なお話をありがとうございました!